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大阪地方裁判所 平成5年(ワ)2779号 判決

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告藤井明に対し、各自一二五七万六〇〇〇円及びこれに対する平成五年四月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告らは、原告藤井潤子に対し、各自一二五七万六〇〇〇円及びこれに対する平成五年四月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

4  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  (売買契約等の締結等)

(一)(1) 原告らは、平成三年一一月二九日、被告らから、別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)及び同目録記載の建物(以下「本件建物」という。)を代金三五八〇万円で買い受けた。

仮にそうでないとしても

(2)① 原告らは、平成三年一一月二九日、被告森本から、本件土地及び本件建物を代金三五八〇万円で買い受けた。

② 被告平山は、右売買契約を仲介した。

(二) 本件建物は平成四年三月ころ完成し、原告らは被告らから同年四月中旬に本件土地・本件建物の引渡を受けた。

2(一)  (本件建物の瑕疵)

本件建物においては、本件建物と同じく被告らが分譲した建物である隣家の小さな物音まで聞こえる状態であり、その原因は本件建物とこの隣家との距離が一〇センチメートル程度しかないにもかかわらず、被告らが十分な防音工事をしていないことにある。また、被告らは、本件建物について適法な建築確認を受けていない。

(二)  (本件土地の瑕疵)

原告らは、被告らから本件土地を宅地として購入したものであるところ、本件土地は、公道と接している間口の幅が1.75メートルであり、建築基準法上適法に建物を建築することができない土地である。

なお、後記の被告らの主張で被告らが主張している合意によって本件土地について建築基準法四三条一項において要求される通路が確保できるとしても、そのような形で通路を確保した場合には、実際に本件土地上に建物を建築するための建築確認申請をしても通路の点で問題が生ずることは明らかであり、原告らは、そのことを本件土地購入前に知っていれば、本件土地を購入しなかったものであり、また右の問題があるため、本件土地は今後第三者に売却することも困難である。

3  (被告らの不法行為)

被告らは、本件土地・本件建物に右の瑕疵が存することを承知しながら、原告に対し、本件土地・本件建物が適正な土地・建物であると偽り、原告らをしてその旨誤信せしめてこれらを買い受けさせ、その結果、原告らは本件土地・本件建物の購入代金の弁済として、被告森本に対し、平成三年一一月二九日に一五〇万円、同四年一月一〇日に四五〇万円、同年四月三日に二四一〇万円を、被告平山に対し、同年四月三日に五七〇万円をそれぞれ支払った。

4  (原告らの損害)

(一) 本件建物の右2(一)の瑕疵を是正するためには防音工事をすることが必要であり、その費用は五一五万二〇〇〇円である。

(二) 本件土地の瑕疵による損害は二〇〇〇万円を下らない。

5  よって、原告らは、被告ら各自に対し、不法行為による損害賠償請求権又は民法五七〇条、五六六条の損害賠償請求権に基づき(被告平山に対しては予備的に仲介契約上の適正な物件を斡旋する債務についての債務不履行による損害賠償請求権に基づき)、原告ら各自に対してそれぞれ一二五七万六〇〇〇円の損害金及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である平成五年四月九日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を連帯して支払うことを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1(一)(1)の事実は否認する。同(2)①の事実は売買代金額を除き認める。同(2)②の事実は認める。請求原因1(二)の事実は認める。

2  請求原因2(一)の事実については、本件建物と本件建物と同じように被告らが分譲した隣家との距離が一〇センチメートル程度しかないことは認め、その余は否認する。同(二)の事実については、本件土地が公道と接している間口の幅が1.75メートルであることは認め、その余は否認する。

3  請求原因3の事実のうち、原告らが、被告森本に対し、本件土地・本件建物の購入代金の弁済として平成三年一一月二九日に一五〇万円、同四年一月一〇日に四五〇万円、同年四月三日に二四一〇万円を支払ったこと、被告平山に対し、同年四月三日に五七〇万円を支払ったことは認めるが、その余は争う。

4  請求原因4の事実は否認する。

三  被告らの主張(請求原因2(二)に対し)

被告らは、原告と隣地所有者らとの間で通路に関する合意をさせたが、その合意に基づき、原告らは、その隣地の所有者から隣地の通路のうち本件土地の通路と接する側の公道までの幅二五センチメートルの部分の提供を受け、本件土地のうちの公道までの幅1.75メートルの通路とを合わせた幅二メートルの通路を確保しており、これによって本件土地について建築基準法四三条一項の要件を充足している。

四  被告らの主張に対する原告らの反論

被告ら主張の通路に関する合意においては、本件土地の隣地の更に隣地の土地の所有者が本件土地の隣地所有者に幅五〇センチメートルの通路を提供しなければならないことになっているが、本件土地の隣地の更に隣地に建築されている建物はこの幅五〇センチメートルの通路部分にはみ出して建築されている。

第三  証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  (売買契約等の締結等について)

1  請求原因1(一)(1)の事実については、原告本人藤井潤子の供述及びこれによって真正に成立したものと認められる甲第一一号証中にこれに沿う部分が存するが、これらは被告本人平山裕詞、同森本亨の反対趣旨の供述及び原告が右売買契約に関する契約書であるとして提出している甲第一号証(成立につき争いがない。)には、被告森本のみが売主として記名捺印していて、被告平山は仲介人として記名捺印しているとの事実に照らしてたやすく措信できず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。

2  請求原因1(一)(2)①の事実は、売買代金額を除き当事者間に争いがなく、同②の事実、請求原因1(二)の事実はいずれも当事者間に争いがない。

二1  (本件建物の瑕疵について)

原告らは、本件建物においては、本件建物と同じく被告らが分譲した建物である隣家の小さな物音まで聞こえる状態であり、その原因は、本件建物と右の隣家との距離が一〇センチメートル程度しかないにもかかわらず、被告らが十分な防音工事をしていなかったことにある旨主張し、本件建物と右の隣家との距離が一〇センチメートル程度であることは当事者間に争いがない。そして、原告本人藤井潤子は、平成四月四月二三日の本件建物への入居時点において夜にどんどんという音がして眠れなかった旨供述するが、同時に原告本人藤井潤子は、本件建物内において気になる音はモーターの音であり、一番大きいのは本件建物の近くの設置してある自動販売機の音であり、昼間は気にならないが、寝ると全身に響く旨及び右のどんどんという音は隣家の子供が歩いている音であるが、平成四年一〇月に隣家の居住者に注意して以来気にならなくなった旨供述しているところ、右の程度の音が聞こえることをもって直ちに本件建物に一般的な瑕疵が存するとまではいうことはできず、また本件建物について防音工事を施す旨の約定が本件建物の売買契約に存したことについての主張立証のない本件においては、右の各建物間の距離が一〇センチメートル程度であったとしても、原告らにおいて、被告らに対し、本件建物につき右認定のごとき音までをも遮断する防音工事をすべきことを要求することはできないものというべきである。

したがって、右認定のごとき音が聞こえることや、右のごとき防音工事がなされていないことをもって本件建物に瑕疵が存するということはできない。

また、原告らは、被告らが本件建物について適法な建築確認を受けていない旨主張するが、原告らが本件建物の瑕疵にともなう損害として主張しているのは、請求原因4(一)の防音工事費用であるから、右の瑕疵はこの損害とは因果関係のないものである。

2  (本件土地の瑕疵について)

本件土地が公道と接している間口の幅が1.75メートルであることは当事者間に争いがない。ところで、成立に争いのない乙第三号証、被告本人平山裕詞の供述によって真正に成立したものと認められる乙第四号証及び被告本人平山裕詞の供述並びに弁論の全趣旨によれば、本件土地の公道までの路地状敷地の幅員は公道から建物敷地部分まで1.75メートルの幅員があること及び被告らが、平成四年四月一四日、別紙図面記載の被告森本において分譲した本件土地を含む三筆の土地の所有者間で、同人らが建築確認申請等をする場合には右各土地のうちの別紙図面赤色部分を通路とすることを承諾する旨の合意をさせており、これによれば、原告らは、本件土地について建築確認申請をする際には、建築基準法四三条一項で要求されている間口二メートルの通路を確保するため、本件土地の隣地(別紙図面ハの土地)の所有者から右の隣地の路地状敷地部分のうち本件土地の路地状通路部分と接する公道までの幅員二五センチメートルの部分を通路として使用することの許諾を得ているものということができる。

ところで、原告らは、別紙図面ロの土地の所有者の建物が右の道路部分にはみ出して建築されている旨主張し、弁論の全趣旨によって真正に成立したものと認められる甲第一五号証によれば最大で5.6センチメートルの幅で右建物の一部が右の通路部分にはみ出しているとの事実が認められる。しかしながら、右のはみ出しの態様、その部分の補正の要否、可否等を明らかにしうる証拠が本件全証拠中に存しないことや、本件土地の隣地の所有者が右合意の効力を争う姿勢を示していることを認めるに足りる証拠はないことに鑑みれば、右の事実をもって右合意の効力を否定し、ひいては本件土地について建築基準法四三条一項において要求される通路が確保できていないと断ずることはできない。

また、原告らは、右合意によって本件土地について建築基準法四三条一項において要求される通路が確保できるとしても、そのような形で通路を確保した場合には、実際に本件土地上に建物を建築するための建築確認申請をしても通路の点で問題が生ずることは明らかであり、原告らは、そのことを本件土地購入前に知っていれば、本件土地を購入しなかったものであり、また右の問題があるため、本件土地は今後第三者に売却することも困難である旨主張するが、本件土地上に建物を建築するための建築確認申請をした場合に通路の点で問題が生ずることが明らかであると断ずるに足りる証拠やそのために本件土地を今後第三者に売却することが不可能であると断ずるに足りる証拠は本件全証拠中に存しない。

以上によれば、本件土地には原告ら主張のごとき瑕疵が存するということはできない。

三  (結論)

以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告らの本訴請求はすべて失当であるからこれをいずれも棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

別紙 物件目録〈省略〉

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